この島では、次々に物が消えていき、人々の記憶からも消えていきます。
主人公は小説を書いている若い女性。彼女の子どもの頃、地下室は母の彫刻の仕事部屋で、母が秘密の引き出しから、なくなった物を見せてくれました。
リボン、鈴、エメラルド、切手、そして香水。
父は野鳥の研究家で、南の丘の頂上にある野鳥研究所に勤めていました。彼女は始終そこへ遊びに行き、若い研究員たちに可愛いがられていました。
その後、両親も面倒をみてくれたばあやさんも亡くなり、彼女は1人でこの家に住んでいます。鳥が消滅したのが父の死の後でよかったと思っています。
鳥が消滅した後、秘密警察の5人がやってきました。皮のブーツのままずかずかと2階の父の部屋に入り、鳥に関するすべての書類と本を黒いビニール袋に詰めて、2袋ずつ背負って、表に止めてあったトラックで去りました。
夕方散歩に出ると、必ず港に繋がれている元フェリーの残骸の船に住んでいるおじいさんを訪ねます。この人はばあやさんのご主人で、元はフェリーの整備士でした。
彼女はこの信用のおけるおじいさんに、秘密の部屋を作る手伝いを頼みます。1階の天井と2階の床との間に秘密の小部屋を作ります。そこに彼女の小説の担当者である出版社勤務のR氏をかくまうことにします。
その後、小説や本がなくなり、町の図書館も焼け落ちてしまいます。大津波が押し寄せたり、秘密警察の捜査が入ったりしますが、秘密の小部屋は無事です。
おじいさんが亡くなり、彼女も消えてしまいます。最後に残ったのは、R氏。
そんな酷い状況でも、熱いお茶とワッフル、カステラ、リンゴケーキのお八つが美味しそうで気持ちが和みました。
この作者の筆は丁寧で、優しいです。そして芯に強い物を秘めています。
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