女優のように美しい女が巨万の富を蓄えた「悪女について」(有吉佐和子)

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*美しい資産家の女性が、7階の窓から飛び降りて亡くなりました。テレビや週刊誌は大賑わいです。彼女と接触のあった人々が語ります。

早川松夫:まだ少女のような鈴木君子さんと夜学のそろばん塾で一緒でした。熱心でおじさんたちの間では興味をそそる存在でした。けれど僕にとっては初恋の相手で、2人そろって2級の試験に合格しました。12月の夜、彼女は夜空を見上げて「数学は美しいわね。夜空のお星さまのよう。私はきれいな物は何でも好き」と言いました。25年たって、自分は平凡なサラリーマンですが、彼女は女実業家です。日本橋のデパートでばったり行き合い、お食事の約束をしたところでした。

丸井牧子:君ちゃんの家の八百屋の隣の雑貨屋の娘です。仲良くしていました。両親は継親という話でしたが、普通の家族でした。私は嫌々でしたが、君ちゃんは算盤塾に喜んで通っていました。大人になって立派な車で訪ねてくれましたが、一緒にそろばん塾に通ったことはない、と言うのが不思議でした。

渡瀬義雄:中華料理屋のアルバイトで知り合い、同棲しました。子どもができたと言うので、僕は逃げました。実家は静岡の旧家なので、子供ができた女とは一緒に居たくなかったのです。5年経って親の勧める女と結婚して戸籍謄本を取り寄せると、何と6年前に結婚して男の子が2人も居ました。弁護士を立てて、5千万円でやっと手を切りました。

宝石店と中華料理屋を経営していた沢山英二との間にも男の子が2人いました。日本経済の高度成長期の波に乗って、軽井沢に土地まで買ってホテルを建てていました。

富本寛一と結婚した時は、ホワイトハウスのような立派な家を建て、コックまで雇っていました。そこで切り盛りを任された女中は「大奥様と旦那様によく尽くしていらっしゃいました」と言っています。それにも関わらず、2人は家を出ていってしまいました。そこへ男の子を2人引き取りました。庭に花を咲かせて、穏やかな日が続きました。女中にもマンションの頭金を出してあげました。

日本橋のビルでは、宝石店を営み、レストランを営業していました。「清く正しく生きたい」というのがモットーのようでした。そして窓から美しい虹のような雲を見て、傍に行きたくて落ちてしまったのでしょうか。

*美しいヒロインとお金儲けは似合わないようですが、この不思議な女性は思う存分自分の本領を発揮して、幸せな人生を送ったのではないでしょうか。

著:有吉 佐和子
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