さまざまな人の再出発を描く『海の見える理髪店』(荻原浩)

海の見える理髪店

表題を含めて6編の短編集です。

「海の見える理髪店」

海辺の小さな町にある理髪店。年輩の店主が1人で切り盛りしている人気のお店です。予約を入れて行くと、シャンプーからマッサージまで付いた心地よい昔風の理髪店です。

特徴は、海を写す大きな鏡があること、店主がずっと自分の人生を語ることです。

「いつか来た道」

16年前に飛び出してから初めて帰る自分の育った家。弟から「いま会わないと後悔するよ」と電話をもらって、しぶしぶやって来た42歳の杏子。

私はこの短編が一番、心に沁みました。母と娘の関係が、かなり私と母に似ていたからです。私の母はこの絵描きの母と違って普通の主婦でしたが、長女の私には厳しく、妹にはやさしく、弟には甘かったです。“私や姉とは違う動物を、ペットとして可愛がるように”。この一文に、思わず納得しました。

物語の母は絵描きで、杏子が訪ねた時もアトリエで絵を描いていましたが、認知症を患っています。にもかかわらず、彼女のことを“杏子・娘だ”と分かりました。杏子の頑なな気持ちがほぐれて行きます。

最後に“また来るから”と言えた杏子に、ホッとしました。

「遠くから来た手紙」

仕事にばかりかまけ、マザコンの夫に腹を立てた祥子は1歳3ヵ月の娘を連れて実家に帰ります。

⒉階の自分の部屋は弟夫婦が使っていたため、亡くなった祖母の部屋を使います。自分と夫は中学の時の同級生。その頃のラブレターを見つけて・・・。

「空は今日もスカイ」

小学3年生の茜は、目に入る物をすべて英単語に変えます。母と一緒に住み始めた母の実家の従姉から習いました。祖父の家の居心地が悪く、ある日、家出をします。

山の上の神社で出会った男の子・フォレストと一緒に海を見に行きます。その夕暮れに連れていかれた親切な男のブルーシートの小屋で、夕食をご馳走になり、泊めてもらいます。ところが・・・。

子どもの真っ直ぐな目で見た大人の理不尽な世界が、切ないです。

「時のない時計」

40代の次男は父亡き後、古いけどブランド物の時計を遺品としてもらい、商店街の外れにある古い時計屋に修理してもらいに行きます。

商売柄、狭い店には時計があふれていました。白髪頭の店主が直してくれている間、それらの時計を眺めながら、思い出にふけります。

鳩時計は自分の家にもあった。狭い社宅で1時間毎に「はっぽ」と鳴く声は、うるさかった。文字盤の中で白雪姫と2人の小人が踊る箱形の置き時計は、夏休みのたびに出かけていった従姉の部屋にあった。パタパタ時計は、デジタル時計のアナログ版。まもなく本物のデジタル時計に取って代わられた・・・。その話に、時計屋も自分の家族との思い出を話してくれます。

そして修理代は、18、000円也。しかも偽ブランド物と判明。

「成人式」

15歳の一人娘を交通事故で亡くした夫婦は、その辛さをずっと引きずったままの生活です。

娘が20歳になるはずの時、成人式の振り袖のカタログや案内が来ます。初めは泣いたり怒ったりしていましたが、妻が考えを変えて、自分が成人式に出ることにします。

髪を染めたりして盛り上がっている妻を見て、夫は自分も出ることにします。2人は振り袖を着て、目立つ羽織・袴を身に付けて、成人式に出ます。そこで娘の友人達と賑やかに写真を撮ります。これからは少しずつ明るい生活になりそうです。

いずれも家族をテーマにした話ですが、ひと味ひねった面白さがあります。

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