32歳の2人のゴールインまで『やめるときも、すこやかなるときも』(窪美澄)

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やめるときも、すこやかなるときも

家具職人をしている須藤壱晴と会社員の本橋桜子は、友人の結婚式の二次会で出会いました。二人とも酔っぱらって洋服を着たまま壱晴の部屋で何事もなく寝ましたが、そのいきさつはさっぱり覚えていません。

二度目の出会いは、壱晴の個展のカタログを作るために桜子が仕事場を訪れた時です。12月のある時期、壱晴は声が出なくなります。その原因は、高校時代に好きだった真織が目の前で交通事故で亡くなった心因性のものです。その時期は相手への返事を紙に書きました。

桜子は父親の仕事がうまくいっているときは妹との4人家族で幸せでした。仕事が傾いてしまってから、父は酒におぼれて家では母に暴力をふるいます。妹は早くに結婚して、家計は桜子の働きでした。

そんな二人がお互いに好意を持ち始めます。壱晴は声が出なくなるのを癒すためには、親しい誰かと事故現場を訪れること、と知ります。そして真織のことを桜子に話し、一緒に松江の宍道湖畔へ行ってもらいます。桜子は壱晴の心に今も真織が住みついていると感じて、寂しく遠ざかります。

その二人が再び親しい間柄を取り戻すには、恩師、友人たち、二人の母たちの力と、どうしてもこの人しかいないという強い思いが必要でした。けれど長い人生、「やめるときも、すこやかなるときも」愛し続けられるかは、神のみぞ知る、です。

  一人一人の人物に温かい友情、師弟愛、母性愛があって、好感のもてる環境に浸れました。

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