*私はサスペンス小説は、ほとんど読みません。怖い話が嫌いな臆病者ということもありますが、人が殺められるのが嫌なのです。この小説は、植木職人が主人公というところに引かれて読み始めましたら・・・まさにサスペンスです。どうしようと思う間もなく、読みだしたら止まらなくなりました。作者は男性かと思いましたら、女性です。凄い作品に圧倒されました。
曽我雅雪は、30過ぎの植木屋3代目です。親方は祖父で、父は才能ないので植木屋を継ぐのは孫の雅雪だと言われています。背中と左手の平に火傷の痕があり、仕事をするのに少し支障があります。しかし植木屋の仕事は好きで、もっと勉強したいと思っています。祖父と父の処には女の人の出入りが激しく、たらしの家と陰口をきかれています。
雅雪は、両親を事故で亡くした遼平を、赤ん坊の時から面倒を見てきました。良くなついてくれたのに、中学2年になった現在は、反抗的です。一緒に暮らしていた祖母が亡くなった今、自分が引き取りたいのに、反発されています。
遼平の両親はどうして亡くなったのか、祖父にみかぎられている父はどうなっていくのか、庭作りの仕事と相まって謎は深まり、次第に明らかになっていきます。毒もあるけれど、主人公が善意の男で救われています。
最後の方、山の中で雅雪が遼平と焚火をしながら、自分は子供らしい楽しみを何も味わわせてもらえなかった、だから遼平を動物園に連れて行ったり、遊園地で一緒に遊んだりがとても楽しかった、と話す場面は、遼平だけでなく読者の心にも響きます。土砂降りの中の夜道を遼平を先に帰らせて、苦労しながら下る雅雪は、いい男だな、幸せになってほしいと願ってしまいます。
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