事実と真実はちがう『流浪の月』(凪良ゆう)

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流浪の月

*人気作家・凪良ゆうさんの3年前の本屋大賞受賞作です。映画にもなったので、ご存じの方が多いでしょうが、私は初めて読んで、とても胸を打たれました。

両親との幸せな子供時代を過ごした更紗は、父親を癌でなくし、間もなく母にも出ていかれてしまい、伯母の家に引き取られます。その家はすべてのルールが元の家族と違い、そのうえ中二の従兄から嫌なことをされます。

夕方、公園で本を読んでいると、向こう側のベンチでも若い男の人が本を読んでいます。雨が降り始めました。すると、ビニールの傘がさしかけられます。ほっそりと背が高くてきれいな顔をしています。「帰らないの?」「帰りたくないの」「家にくる?」という静かな会話で、9歳の更紗は19歳の文のマンションで暮らすことになります。

お行儀のよい文を、しっちゃかめっちゃかで自由奔放な更紗の行動が面白がらせます。父に似た雰囲気の文は19歳の大学生。きちんと大学に通い、更紗にご飯を食べさせてくれます。とても居心地がいいです。ところが、更紗が行くえ不明になっていると、ニュースになりました。

2カ月ほどすると、テレビでパンダのニュースが増えました。「パンダが見たい」と更紗はねだり、2人は久しぶりに電車に乗って動物園へ行きます。そこで更紗は気が付く人に気づかれ、警察に通報されます。文は児童誘拐で逮捕されました。伯母の家にもどされた更紗に、従兄が悪さをしようとしたので、酒瓶で頭をなぐって怪我をさせました。更紗は児童養護施設に行くことになり、文は刑に服しました。

*凪良さんの文章は自然で優しいです。内容の深刻さを忘れるほどです。大人になって再び出会った二人は、まだ事件を忘れていない世間に苦しめられます。けれど二人で一緒にいる安堵感を捨てきれず、最後は一緒に長崎でカフェを開きます。ホッとしました。事実と真実は違うということ、真実を貫けば人は幸せになれる、と思い知りました。

著:凪良 ゆう
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