大分県の海に面する丘の上の一軒家に越してきた三島キナコ。その町で虐待されているらしい少年と出会います。
キナコ自身が母と義父から虐待され、子ども時代から辛い苦しい状態で過ごしました。高校時代からの仲良しの晴美とその職場の友人アンさんが支えてくれ、特にアンさんには救われました。それなのに就職先の専務と深い仲になり、彼が結婚してからも付き合う仲でいて欲しいと言われ、悩みます。
結果は専務との付き合いを反対していたアンさんは、他の理由で自死し、専務からは傷つけられます。そして祖母が1人で住んで亡くなったこの田舎町にやって来ました。
少年の母は美しい人で、祖父は元校長先生、今は老人会の会長です。その2人がこの少年を「ムシ」と呼び折檻していました。少年は家に帰りたがりません。キナコは少年に新しい服を着せ、たっぷり食事をさせます。そして自分が眠れないときに聴いていた52ヘルツのクジラの鳴き声を聞かせます。クジラは海の中で仲間たちと音波を飛ばして交信しますが、この52ヘルツのクジラの声は、誰にも届きません。
この寄り添い信頼し合う2人が愛おしいです。自分の声を聞いてもらったことのあるキナコは、今度は少年の声を聞きました。
新聞を騒がす親の虐待、ヤングケアラー、トランスジェンダーの問題が柔らかいタッチと丁寧な心理描写で描かれています。読んでいて辛くなりますが、最後は感動の涙をこぼしました。
ポチップ
コメント