主人公は、梅本杏子(通称アンちゃん)。高校を卒業したばかりの18歳。身長150cm、体重57kg。彼女の目線からの語りが軽妙で分かり易く、とても楽しく読んでいける小説です。
杏子は大学には行きたくないし、専門学校へ行くほど興味のあることもないため、アルバイトをすることにします。体型上服飾関係はダメと諦めて、見つけたのがデパ地下の和菓子屋さん。
店長はデキるタイプの大人の女性、もう1人のアルバイト女子は同い年の大学1年生、そしてあと1人は和菓子屋社員の職人志望20代男子。その4人のチームワークで毎日和菓子を売ります。
売り手4人の人柄も面白いですが、お客様も個性的です。彼女たちの服装や買われたお菓子から謎解きをしたり、楽しそうです。
和菓子は季節ごとに変り、それぞれに謂われがあると教えられます。例えば七夕のお菓子。新暦用の『星合』は黒い餡の上にカササギが飛んでいる絵柄で地味です。理由はこれから織り姫と彦星のために橋を架けに行くところだから。星達が出会った後の旧暦用は『鵲』。白いういろう餡の上にカササギと星の焼き印があります。
中には江戸時代の尾形光琳の意匠を使った『光琳菊』というのまであって、季節ごとに物語と言葉遊びのような楽しさがあります。
もう1つ興味深かったのは、デパ地下の表からは見えない部分を覗かせて貰えたこと。言葉遣いでは「遠くへ行ってきます」=「トイレへ行く」がなるほどと納得。配送品を台車に積み上げて、なかなか来ないエレベーターで配送所に運ぶのは重労働のようです。でもアンちゃんはその時間を他店の店員さんとの交流の場と楽しんでいて、良い性格をしています。
閉店30分前になると、どの店も全商品を半額以下で売り出します。お弁当・総菜などは投げ売り状態で、勤め帰りの人達や狙って待っていたお客さん達が殺到します。残ったお弁当を全部安く買い取って、グループホームに届けているベテラン店員さんのエピソードはじ~んときました。
世の中の風潮で何となく上の学校を目指すのではなく、自分を良く知って自分にあった働き場所を見つけて、生き生きと働いているこの主人公がとても好もしく、心温まる物語です。
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