夏木林太郎は高校生、今は不登校中です。幼いころに両親が離婚したため、祖父と暮らしていました。ところが祖父が亡くなり、初めて会った叔母が引き取りに来て、居心地のよい古書店もたたむことになりそうです。
祖父が丁寧に本を扱っていた古書店には、人気の漫画や雑誌、ベストセラー小説はなく、絶版になったものも含めて古いハードカバーの本がほとんどです。けれど林太郎にとっては居心地のよい場所で、たくさんの本を読みふけりました。
先ほど、学級委員長の柚木という女生徒が連絡帳を届けてくれました。きっと彼女の役目だからだろうと思いました。
「閉店」の札を下げた夕暮れ、チャトラの猫が現れ、林太郎の力を貸してほしいと言います。ついて行くと書店の壁の向こうに廊下が続いています。そして大邸宅に着きます。案内された部屋は体育館ほどの大きさ。そこに白いショーケースが整然と置かれ、すべての中には書物が収納されています。
主人は洗練された長身の男性。マスコミによく顔を出しています。一日一万冊の本を読んで、読み終わるとすぐショーケースにしまってカギをかけるそうです。「本当に本を愛する人は、本をそんな風に扱わない!」と叫びます。祖父が「本を読み終えたら、次は歩き出すのだ」と言ったのを思い出します。
男は「お前は本が好きか?」と聞きます。「好きですよ」と答えると「私もだ」と答えました。巨大なホールの本は次々に舞い上がって飛んで行ってしまいました。男は「貴重なひと時だった」と言い、林太郎は元の古書店に戻れました。
ある時、老紳士が祖父のことを「本当に立派な人物だった」と言ったことを思い出します。大学の教授にまでなったのに、力及ばず、町の片隅で当たり前のことを続けようとしたのだと。「嘘をついてはいけない、弱いものいじめはいけない、困っている人には手を貸してあげる」そういう当たり前のことを実行するために。
チャトラ猫はまた現れて、第二の迷宮に入ります。今度は学級委員長の柚木も一緒です。ベートーヴェンの第九が大音響で鳴る中、本の速読とあらすじだけを取り出す研究をしている人がいます。『走れメロス』を「メロスは激怒した」だけにして後は切り刻むそうです。林太郎は第九を早送りして、「そんなことは読書ではない」と言います。祖父が「読書は山登りに似ている」と言ったことを思い出します。
第三の迷宮も柚木と一緒です。世界一番堂という出版社に着きます。社屋の外へ本がどんどん捨てられていきます。社長が「ここは天下の大出版社。どんどん本を作って売らねばならない。だから作った本をどんどん捨てていくのだ」。林太郎は叫びます。「本は消耗品ではない!」
店に戻った林太郎は猫にお礼を言います。「店に閉じこもっていた僕を開放してくれてありがとう」・・・ところが、引っ越しの日も決まったクリスマスイブの日、またトラ猫が現れます。「柚木を助けに行かねばならぬ」と。
柚木を助け出し、デイトの約束までして、林太郎は前を向いて歩きだします。
読書家で医師で人気作家の著者の思いが伝わってくる物語です。
コメント
コメント一覧 (1件)
こんにちは。
自分も『本を守ろうとする猫の話』読みましたよ。
とても良かったです。
主人公の本の知識が圧巻でした。
そのうえ祖父の本に対する思いを印象的だと思いましたよ。