しばしば笑ってしまう『花桃実桃』(中島京子)

花桃実桃

花村茜は43歳独身の勤め人です。父が亡くなって、郊外のぼろアパートを相続することになります。築20年、9戸のうち4戸も空き家です。見に行った日は桜の花びらが散っていて、花桃、レンギョウ、ドウダンツツジが花盛り。しかも花壇に花を植えていた老女に挨拶すると、「桃さんの?」と韋駄天のごとく走り帰ってしまいました。

職場では肩たたきにあっていましたし、不動産屋の親父は気に入らないし、近くに高校の同級生だった尾木くんがバーをやっているという安心感もあって、空いていた101号室に住み、管理人をすることにしました。

「302号室」:家賃を滞納しているというので尋ねると、弦楽器の音がします。自分はミュージシャンだという青白い顔をしたウクレレ弾きでした。家賃を催促すると、めそめそ泣きました。その後尾木君のお店に紹介します。

「201号室」:中学生の陸くんに「結婚しない?」と言われてびっくり。過去のプロポーズされた思い出がよみがえります。それは彼の父親と・・・という意味でした。もうすぐ全寮の高校に進むことになっているのに、弟二人を父に預けて行くのは心配で、という話でした。父親本人からデートに誘われますが、まず車の運転が危なっかしい、自衛官だった妻に去られたという話も納得。陸君には気の毒だけれど、断りました。

「202号室」:夫妻の会話のテンポが『東京物語』の笠智衆と東山千栄子のようです。路地裏の光食堂で夕食が一緒になり、父の思い出話をします。そして「今年はヤクルト!」と乾杯します。その話を父の彼女だったらしい李華ばあさんにすると、「あんた本当に桃さんの娘だね。彼もそういう才能あったよ」という返事。202号には人が住んでいませんでしたし、光食堂もありませんでした。

「203号室」:顔中を整形している女性。42歳だそうです。さまざまな成型方法を教えてくれます。確かに茜は40代に入ってから体の衰えを感じています。大家の仕事のストレスから、円形禿までできてしまいました。同級生の尾木君もジャニーズ系の男の子だったのに、今はアンパンマンのようです。整形女性が、円形脱毛は髪の毛で隠せばよいと教えてくれました。そして整形するたびに去って行った元の顔はどこへ?と思うそうです。尾木君から電話があり、別れた妻と暮らしていた娘が上京してくるけれど、一緒に暮らす自信がないと言います。それは娘だって嫌でしょう。

「303号室」:猫をかいたがって、実際に部屋に入れている探偵。301号室に試しに泊まりたいと言った客を、泥棒として捕まえ、警察に表彰されました。

「301号室」:クロアチアから大学の客員教授として来た詩人を入れます。言葉が通じませんが、名前はほろほろビッチさんです。現れた男性はジーザス・クライストのような風貌です。ツナ缶を持って「マグロ スシ!」と笑います。尾木君が「クロアチアは養殖のマグロが盛んで、日本に輸出している」と教えてくれました。百人一首の恋の句を指して解釈をしてもらいたがるので、自分に気があるのかと思いかけたら、婚約者で金髪の女性がやってきました。尾木君がホッとした表情をします。

「103号室」:梨花ばあさんが住んでいます。父の思い出話をしんみりするので、本当にカノジョだったようです。ある日、彼女が車にぶつかって怪我をしたと連絡が入ります。病院に駆けつけると、4人部屋のベッドに小さくなっていました。お茶を入れてあげると、飲みながら「桃さんがね、花桃は花はつけるけれど実はならない。だけど俺はそういう花が好きだ、って言うの。それ私のことよ」言います。父がやっていた習字教室で出会ったそうです。そして自分には行き遅れの娘がいると話していたそうです。なんて失礼な!いまどき40代シングルなんて当たり前、と腹を立てますが、老後の父が楽しく過ごしていたようで、ホッとします。その上、「この花桃館にずっと住んでいてほしい。継ぐ娘にそう言っておきます」という遺書を遺していました。

*あといくつかの話がありますが、茜は賑やかに暮らしていきます。

著:中島 京子
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