*9つの短編小説から成る本です。その中から2つの作品を記します。
サキの忘れ物
千春は病院に併設している喫茶店で働く18歳の少女です。勉強はできず、夢中になれるものもなく、高校をやめました。そこへ、平日は毎日夜の8時に来て閉店の9時まで本を読んで過ごす初老の女性に気づきます。ある日、本が置き忘れてありました。サキという外国の男の人の書いた短編集でした。店に置かず、持ち帰ります。自分に女の子が出来たら、サキという名前にしたいと思ったことがあるからです。けれで本の写真を見ると、鼻のとがったおでこの広い男性で、ミャンマー生まれ、と書いてありました。
本を忘れた女性は次の日も来て、本を取ってあることを言うと「電車じゃなくてよかった」と喜びました。友達のお見舞いに来ているけれど、眠っている時間が長いので本がないと持たないのだそうです。その日の帰りに、千春は本屋に寄って、同じ本を買いました。
次の日、女性はお見舞いに行った女性のところから大きなブンタンを貰ってきて、店長と先輩の菊田さんと千春にくれました。翌日二人は美味しかった、と言いましたが、香りがよいので千春は机の上に置いてあります。千春は女性に、自分も同じ本を買って読んでいる、と話します。その日は寒くなりました。母に掛布団を頼みますが、出してくれませんでした。
翌日、仕事中に熱が出て、隣の病院へ行きます。すると待合室で本の女性と会いました。疲れているようで、2人でリンゴジュースを飲みながら話します。駅近くの本屋さんがなかなかいいと言います。本を買ったことのなかった千春は感心しながら聞きました。
一日休んでから仕事に行くと、先輩から四角い封筒を渡されます。「ブンタンをくれた人からよ。お見舞いしていた方が亡くなったので、もう来ないからって」封を開けるとカードが入っていて、短いお礼の文と数冊の本のリストが書かれていました。元川恵里という名前でした。
千春は高校認定試験を受け、書店でアルバイトするようになります。3年後に正社員になりました。家を出て寮生活です。ある日、本を探している女性を見て「元川さん」と声をかけます。「本屋さんになったんですね。立派になって」と言われます。「今度は自分のことで、病院通い」と言うので、「ここへ通ってくださいね」と返事しました。
行列
あれが無料で見られるというので、凄い行列です。みんな椅子に座って並んでいます。38歳の女性は、前後の夫婦や家族ずれの会話を聞いて、やっぱりすごいことなんだと、納得します。待ち時間は12時間と予想されています。でもお茶やお弁当が配られたり、仮設トイレもたくさんあるようなので、安心です。途中で景観エリアがあります。そこで景観を見るために椅子にテープを張って移動します。景観はよかったですが、戻ってくると疲れました。
並び始めて5時間ぐらいしたころ、男の子の大きな泣き声がします。その家族は医療テントの中に入りました。出てきた時は、ずっと前の列に入りました。携帯で調べると、列ジャンプのテクニックが記されています。嫌な気がしましたが、子供のいる家族のことだからと思い直して、モニターを見ます。グッズ売り場で売っている商品の紹介です。友達にお土産にしようと、眺めていると爆買いしている人がいます。サイトで売るのだそうです。
そのうち騒音が聞こえてきます。会期中にも関わらず、改修工事をしているそうです。カードサイズの筐体を売りにきたので、つい買ってしまいました。そしてゲームをして退屈を凌ぎました。あれを見るのは無料でも途中でずい分お金がかかります。
10時間並んだところで、「あれの作者の息子によるあれの模写もあります。比較的すいております。」という案内がきました。前のご夫婦がそちらへ行きます。「あー、ズルしている」と周りの人たちが叫びます。そこで喧嘩になりました。私は急いでそこを離れて、帰りのシャトルバスに乗りました。隣に座った老婦人は「あれはすばらしかったけれど、もっと苦労せずに見られて、同じくらい良いものもありますよ」と言いました。
感想
*1,親からも友達からもまともに扱ってもらえなかった千春が、女性が読んでいた本をきっかけにまっすぐに歩いて行けて、本当によかったです。そういう環境で道を外れていく若者もいると思うと、胸が痛みます。
*2,上野にツタンカーメンを見に行って、列に並んだことを思い出しました。立ったまま2時間ほどの行列で見られました。見ておいてよかったし、何も問題が起きずにすんなり見られて幸せだったと思います。
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