19世紀、アメリカ南部の奴隷制度の酷さ『ある奴隷少女に起こった出来事』(ハリエット・アン・ジェイコブス 堀越ゆき訳) 

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ある奴隷少女に起こった出来事

アメリカ南部で生まれた黒人のリンダには、大工の父とお屋敷に勤める母と2歳下にウィリアムという弟がいました。15歳になった時には両親は亡くなっており、姉弟はドクター・フリントのお屋敷で奴隷として働いていました。主人も奥様もケチで冷たく、尊敬できる夫婦ではありませんでした。

特にドクター・フリントは、リンダを追い回していやらしい誘いをします。大嫌いな男ですが、主なので唯逃げ回るしかありません。奥様の監視も厳しいです。唯一の慰めは、やさしい祖母が自分の家を持ち、お菓子を焼いて売っていて、リンダが行くと温かく迎えてくれることでした。

新年には奴隷商人による奴隷の売買が行われます。そこでは親子夫婦が簡単に引き裂かれます。ある時、リンダの祖母が競売にかけられた時、街の人達からブーイングが起りました。祖母は人徳がありました。

リンダが成長するにつれ主の追い回しはひどくなり、奥様の焼きもちといじめもひどくなります。そこで知り合いのサンズ氏と親しくして、男の子と女の子の2人を産みます。ドクターは怒りましたが、息子が結婚して家に若夫婦が住み、勝手分かった働き者のリンダが必要でした。しかし子どもたちも一緒に住まわせるという計画を耳にして、逃げようと、決心します。

初めはジャングルに紛れ込みましたが、多くの虫や蛇に噛まれて諦めます。そして信頼できる友人宅にかくまわれます。屋根裏の小部屋です。フリント家は、300ドルの懸賞金を掛けた捜索願を出しました。

叔父が祖母の家の小屋の片流れ屋根の下の隙間に、隠れ場所を作ってくれていました。狭い空間に布団を敷きます。真っ暗ですが、小さな穴から外が見えました。そんな身動きの取れない場所で、7年間(?!)過ごしました。唯一の慰めは、小さな穴から子供たちの遊ぶ姿が見えたことです。そして絶えず神に祈りました。途中で病気もしましたが、叔父と弟が漢方薬を使って、無事に治してくれました。

ついに南部から逃げ出す日が来ました。祖母と息子と別れの祈りを捧げ、友人のピーターに小舟で送られて、北行の船に乗りました。同じ境遇の友人の奴隷と一緒に狭い部屋が与えられ、船長は穏やかな初老の男でした。10日経って、フィラデルフィアに着きました。私はやっと奴隷の地から逃げてきましたが、愛する人はみんな故郷に置いてきました。そこで親切な牧師一家の世話になり、ニューヨークに向かいます。

ニューヨークで娘のエレンと会えましたが、幸せそうではありませんでした。私は子守の仕事を見つけます。そして、弟のウィリアムとも再会できました。息子も後を追ってきました。ボストンに移り、部屋を借りて、ようやく母子3人、安心して暮らせるようになりました。

*人柄の悪い嫌な主人には仕えたくない、という強い意志を貫いて、一人進んで行く黒人女性。肉親への愛情は深く、子供たちを思う気持ちも強いです。そして信仰深いこと! 現代のアメリカは人種差別はなくなったのでしょうか?

著:ハリエット・アン・ジェイコブズ, 翻訳:堀越ゆき
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