連句と和菓子とポップ『言葉の園のお菓子番』(ほしおさなえ)

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言葉の園のお菓子番

一葉は、大学を出て4年勤めた書店が閉店して、仕方なく、文京区根津にある実家に戻りました。亡くなった大好きな祖母の部屋には、本棚が1つ残っていました。

入院中にお見舞いに行った時に「私がここから戻れなかったら、本棚にあるノートを見てほしい」と言われていました。

ノートを開くと連句が書かれていて、挟まれていた紙に、1月から12月までのお菓子の名前が並んでいました。祖母は楽しみだった句会のお菓子番だったのです。

3月の第4土曜日、隅田川沿いのお店で長命寺桜餅を買って西馬込の連句の集いを訪れます。一葉は歓迎され、仲間に入れてもらいます。

「なつかしき春の香の菓子並びおり」という女性の方の発句に、「のどかに集う言の葉の園」と付けたら褒められました。祖母も一緒にいるような気がしました。

4月の例会は大森で。商店街は昭和の香りを残しています。一葉は向島で草餅を2種類、人数分より少し多めに買っていきます。前回にはいなかったメンバーも居て、連句の講義を聞きながら句を作ります。

連句では丈高い句も軽い句もそれぞれ役割があります。「海近し商店街はうららかに ウツボのそりと陽炎の中 大鍋で八朔の皮煮詰めゐて 短編集のページ繰りつつ」と、できあがりました。

「自分はみんなみたいに凄い句は作れない。それでも連句はできるところがおもしろい」と言っていた祖母の言葉が蘇ります。

雑談で一葉が書店でポップを書いていたことが知られ、メンバーの1人が友人のパン屋を紹介してくれます。天然酵母で作った美味しそうなパンに、ポップを書くことを依頼されます。

試行錯誤の後、グレーの紙に毛筆でパンの説明と絵を書きました。店主に喜んでもらえて、お礼も頂け、その後売り上げも伸びたそうです。

5月の連句の日は、言問団子。池上本門寺近くの池上会館へ、丸いお団子を3種類持参しました。  

「夏木立光の玉が揺れてをり ピアノの音の響くベランダ 永遠のような数式書いていて 古い線路の先を見つめる」と連句もできました。

・・・と毎月、お土産の和菓子と連句が続き、ポップも園芸店、日用雑貨店と頼まれて行きます。

失意の中にいた一葉は、楽しみを見つけ、新たな仕事の道も開けそうです。

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