この作者は『複合汚染』でも『恍惚の人』でも数年先の人々の苦労を先取りするような小説を書かれていて感服していました。
これは同じ女子校を出た3人の女性が新宿の大手デパートに勤めた5年間の物語です。最近も人気のあるお仕事小説の先駆けともいえます。今年6月に文庫本になって出ました。
背が高く美人の牧サユリは、エレベーター係です。そういえば昔のデパートのエレベーターには、スマートな女性が乗って機械を動かしていました。止まる階を聞き、その階ではドアの外に出てフロアの案内をしていました。
サユリは宣伝部の嘱託の格好いい男性と恋仲になります。制服を脱いだ私服は派手で、男性とお酒を飲み、旅館に泊まるほどの間柄になります。
おっとりしていて堅実な松野紀美子は、4階の呉服売り場に配属。4年経って入ってきた大学卒の男性が生意気で、最初の頃は角つき合わせていましたが、ついには仲良くなり、苦労人で穏やかな上司に仲人を依頼するまでになります。
紀美子が週1回、閉店後の夜の時間に朗読奉仕をしていることに感動しました。
小柄で働き者の藤田節子は地下の食料品売り場でまめまめしく総菜を売ります。1日に2回くるお客の押し寄せる時間帯は、舟形の経木を左手に乗せ、右手のお箸を絶え間なく動かして注文に応じます。
彼女の楽しみは、毎朝挨拶し合う仕入れ先の男性と会えることです。彼とは2人で会うようになりますが、問題はここの売り場主任が意地悪なことです。たいしたことではないのに怒って、彼の会社から仕入れをするのを止めます。
デパートの内部や催し物などを丁寧に描いたこの物語は、私に母のお供で出かけた頃を懐かしく思い出させてくれました。新宿東口に二幸というビルがあったことも。
サユリは妻子のいる宣伝部の男性との付き合いもデパートも辞め、バーで働くことにします。
節子は結婚してもデパートで働き続ける予定です。共働きの先駆者かもしれません。
3人3様の将来に向かって歩んで行きますが、最後の”今日の閉店が明日の晴れやかな開店を約束しているように、ものごとには区切りというものが必要だ”という呉服売り場の上司の感慨が心に沁みました。読み応えのある小説です。
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