全日本音楽著作権連盟に勤める25歳の橘樹は3歳から15歳までチェロを習ったことがあります。それが理由で、ミカサ音楽教室にスパイとしてレッスンに行かされます。
最大手のミカサ株式会社の音楽教室で使われる教材からも、著作料を取らねばならない、という会社上部の考えからです。
橘は二子玉川店でチェロを教える浅葉桜太郎のクラスに、ポケットに録音機を忍ばせたボールペンを入れて、入ります。
浅葉先生は20代後半くらいで磊落な男性。橘は教室にあるチェロを借りて、ポップスを希望します。「なかなか筋がいい」と褒められます。
橘は子どもの頃に厭な記憶があり、ここ数年は不眠症外来に通っています。人付き合いもよくなく、友人はほとんどいません。
講師のアドヴァイスが的確で、腕は上がっていきます。だんだんチェロを弾くのが楽しくなってきます。その上、先生を囲む会にまで誘われます。
生徒でもある年配の女性のお店で、女子大生、中年のサラリーマン、男子大学院生ととりとめのない会話を楽しみ、親しくなります。
そして発表会がきます。橘は、小野瀬作曲「戦溧のラブカ」を弾くことを勧められます。伴奏は浅葉先生。演奏は仲間からは羨ましがられ、先生からは褒められます。
ここまで信頼関係を築いてきて、スパイとばれた時はどうなるのか、悩みます。
結果は、浅葉先生は本気で怒り、椅子を蹴り飛ばします。
けれど、音楽の力が勝ちました!橘は会社を辞め、自分のチェロを買って、先生の前に現れます。
バッハの「無伴奏チェロ組曲」を弾きたいと言い、先生は受け入れてくれます。
ハラハラしながら、チェロの音に惹かれていく物語です。
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