表題に引かれて買って、読み始めて驚きました。コロナウィルス蔓延の現在の先取りのような、現在よりもっと怖い話でした。
如月優希は駆け出しの小説家、蕎麦屋と喫茶店のアルバイトをしながら暮らしています。ある日、一緒に暮らす美大生の渉がウィルス性の病に倒れて入院します。彼は脳炎を起こし、言葉がしゃべれなくなります。優希も感染しましたが、発症はしませんでした。アルバイトは食品を扱うので辞めようと思ったら、お店が閉店になりました。
バベルウイルスの感染は広まります。感染は犬・猫のような動物から蚊のような刺す虫、そして人から人へ。
政治家の設楽は感染者と非感染者を住み分けるようにします。山手線に沿って万里の長城を作り、内側を非感染者の住居地にします。そして無菌の子供たち用に54階の高い塔を作って住ませわせます。
その後、優希は反政府団体”パンサー”の親分になり、非感染者地域に入り、感染者たちを殺そうとする薬品のアジトを襲います。ここのサスペンスタッチがこの作家の腕の見せどころでしょうか? 言葉の出ない渉はたくましくなり、優希をやさしく支えます。
今のコロナ禍にもうっすらした差別はあるかもしれません。でも明らかな階級差がないことにホッとします。8年も前に怖い小説を書いた作家がいたことに、驚きました。
旧約聖書に記された高い塔を作ろうとしたバベルでは、それまで一つの言語で話し合えた人々が、ばらばらの地域の言葉になって、意思疎通ができなくなる話です。
ポチップ
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