プロのカメラマンを目指す22歳の慎吾と幼稚園教諭の23歳の夏美は仲良く付き合っています。ある休日、夏美のホンダのバイクの後ろに乗って、房総半島の森の奥へ走っています。突き当りに木造の雑貨屋がありました。二人はトイレを借ります。そこには84歳のおばあちゃんと息子である体の悪い62歳のおじいさんが住んでいて、もてなしてくれました。
蛍のすごい川原があると勧められたので、6月の週末に出かけました。近所に住む小学生の兄妹も加わって、素晴らしい蛍の群れと出会えました。慎吾は何度もシャッターを切ります。ホタルブクロの中に蛍を入れた素敵な写真も撮れました。そして夏休みに泊まりに来るように誘われます。
夏休み、二人は離れの一室を借りて孫のような扱いで過ごします。じいさんは蒲公英が好きです。理由は「花が終わっても、たくさんの命を空に飛ばせるなんて、素敵だから」。ときどき紺色の作務衣を着た不愛想な男が来て、じいさんとお酒を酌み交わします。山奥に一人で住む仏師だそうです。
体の不自由なじいさんを支えて美しい川へ行きます。そして魚の取り方やエビの捕まえ方を教わります。小学生の兄妹も加わわって賑やかに楽しい時間が流れていきます。収穫物はおばあちゃんが天ぷらにしたり煮たりして食卓が豊かです。夜は子供たちも呼んで花火を楽しみ、そして近くの露天風呂で汗を流します。
じいさんの体の悪いのは、若いころ建設現場で事故に遭い、脊髄を損傷し脳挫傷まで起こしたからです。そして妻と離婚して幼い息子とも別れました。息子の名前は公英です。蒲公英から一字抜いただけです。
夏休みの最後の日に、じいさんは倒れます。慎吾は救急車を呼んで、おばあちゃんと一緒に付き添います。いったんは帰るものの、週末に車でやってきておばあちゃんを乗せて見舞いに行きます。けれど亡くなってしまいました。じいさんに言われた「他人と比べると自分の良くないことばかりに目がいく」という言葉が胸に沁みます。
葬儀の日をじいさんの妻と息子にも知らせたら、来てくれました。仏師も「あの人は、俺をこの村に受け入れてもらえるようにしてくれた恩人だ」と言います。慎吾はおじいさんの地蔵さんを作ってくれるように頼みます。慎吾が祠を作り、その中にお地蔵さんが収まりました。店の前で下る道路の方を見ています。
東京に帰った慎吾は自分の納得のいく写真を撮り続けました。そして未来が開けます!
*自然の豊かさと人の温かさが読み手に染み入ってくる物語です。
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