映画はさらに素晴らしかった『日の名残り』(カズオ・イシグロ/土屋政雄訳)

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日の名残り

この映画を見た時、執事を演じたアンソニー・ホプキンスにすっかり参りました。まさにイギリスの執事のイメージにぴったりでした。その印象のみ残っていたので、原作を読んだときに改めてイギリス上流階級の執事という役割に感じ入りました。

ダーリントン家に父の代から執事として仕えてきたスティーブンスは、アメリカ人に所有者が代わり、その主の冗談に上手に返せないでいました。そのうえ召使が18人から4人に減ってしまいました。昔働いていた女中頭のミス・ケントンに手紙を出したところ、ダーリントンホールへの郷愁の滲む返事をもらいました。

主から、ガソリン代を出すから自分のフォードで旅をしてくるように言われます。ダーリントン・ホールの名前を出しても恥ずかしくない服装を整えて、西へ向かって出発します。丘の上からどこまでも続いて行く素晴らしい田園風景を見ました。

旅をしながら思い出すのは、ダーリントン卿にお仕えしていた日々のことです。国際会議をしている最中に、父は倒れました。ミス・ケントンの気配りで、客人には知られることなく、屋根裏部屋に寝かして医者を呼びました。

会議の議論は熱を帯びました。台所では召使たちが緊張しきって働いていました。各国の代表が意見を延べ合っています。お付きの従者たちや婦人たちで広いお屋敷は大賑わいでした。立派な執事というのは、大勢のお客を間違いなくもてなす人ではなく、知識が豊富な人でもなく、品格のある人です。それは感情の抑制のきくイギリス人だからこその職業です。その典型的な執事である父親は、賑やかな国際会議の集まりの日に、静かに息を引き取りました。

ミス・ケントンは完璧に近い女中頭でした。たった一人の身内の叔母が亡くなって泣いているのに、慰めてもあげませんでした。結婚してミセス・ベンになり、今は破局して知人の元に身を寄せているなんて、気になります。

旅の二日目の午後、車の不調を感じて立ち寄ったお屋敷の下男から、身分が分られそうになり、ダーリントン卿の悪口を聞かされました。あの偉大な紳士も人によっては悪く言うのです。けれど心の内で「偉大な紳士に仕え、そのことによって人類に奉仕できた」と断言できました。

その夜は、トーントンの町はずれにある馬車屋という宿に泊めてもらいました。1階の食堂で食事をしていると、次々に村人たちがやってきて会話が弾みました。珍しいお客にも話題が振られます。政治の問題、紳士について、、、。チャーチルに会ったことがあると言うと、尊敬されました。

二階に引き取って思い出したのは、ミス・ケントンに対する自分のかたくなな態度です。主人から言われて、ミス・ケントンには反対されたのに、ユダヤ人の女中を2人解雇しました。また彼の場所である食器室に彼女が花を活けて持ってきてくれた時も、邪険に追い出しました。執事と女中頭という間柄で毎晩15分のココアタイムを持って打ち合わせの会をしていたのも、止めました。彼女が男性とデイトすると言って出かけた時も、いつもの休暇という態度で送り出しました。

いよいよリトル・コンプトンのホテルのティールームで、今はミセス・ベイとなったケントンを待ちます。土砂降りの中をやってきた彼女は、年はとったものの美しく老いたように見えました。生身の彼女と再会してとても嬉しく、思い出話をしている間はとても幸せな時間でした。彼女は今は夫を愛し、娘のところには孫も生まれるそうです。

「あなたの未来は?」と聞かれ、「仕事、仕事です」と答えて、二人で笑いました。もう後戻りはできない、というのが二人の感想です。

夕日の美しいと言われる桟橋で、さまざまな人々がその時を待っています。後ろを振り返っていても仕方がない、これからはジョークの技を磨いて、今の主にをびっくりさせようと彼は思うのです。

*映画の最後の映像とは違いますが、しみじみとしたラストシーンです。

著:カズオ・イシグロ, 著:土屋 政雄, 翻訳:政雄, 土屋
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