14編の短編集『杜子春』(芥川龍之介)

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杜子春

*それぞれ印象深い短編ですが、長くなるので特に私の心に留まった話を記します。

「秋」:信子は女子大生の時から才媛でした。大学生の従兄の俊吉とは仲が良くて、文学の話をしたり妹も一緒に音楽会や展覧会に出かけました。周りがこの2人は結婚するものと思っていたのに、信子は学校を卒業すると、高商出身の青年と結婚して大阪へ行ってしまいました。夫は無口だけれど身ぎれいな人でした。留守の間に小説を書き始めましたが、夫に嫌味を言われて止めました。従兄の俊吉は妹の照子と結婚しました。二人の家を訪れた時、信子と俊吉は話が弾みました。夫の留守中、嫉妬する照子を宥めて、帰りの幌車の中から帰宅する俊吉の姿を見かけますが、そのまま行き過ぎて寂しさを噛みしめます。

「素戔鳴」(すさのうのみこと):高天原の春、大勢の若者たちが力比べをしています。容貌の醜い若者は矢を射るのも、川を飛び越えるのも、大きな石を持ち上げるのも、一番でした。力比べで強力の男を死なしてしまいました。彼には村に心を寄せる少女がいました。快活でかわいい少女です。また彼には崇拝する若者と敵対する若者がいました。若者の一人がすさのうに「勾玉をあの娘に渡して、あなたの思し召しを伝えます」と誘いかけます。母の遺品の大切な勾玉を彼に託しますが、彼は偽物と変えて、娘に渡します。それを知ったすさのうは大暴れして彼の家を燃やしてしまいます。そして森の奥へ逃げます。

洞穴の中で女たちに囲まれて暮らしたり、海を渡り山を越えいろいろな国をめぐりましたが、どこも人の心は高天原と変わりませんでした。ある時、高志の大蛇の生贄にされている櫛名田姫を助けて、結婚します。母親似の気立てのよい息子と情熱的な娘に恵まれます。けれど櫛名田姫は亡くなり、彼は丁重に弔います。

娘の須世理姫は恋をします。すさのうは反対で、あの手この手で相手の男を亡き者にしようとしますが、上手くいきません。切り立った崖の上から海を見ると、船を漕いでいく二人の姿が見えました。ようやく「お前たちを祝ぐぞ。おれよりもっと仕合せになれ!」と言い放ちます。神々に近い顔をしていました。

「杜子春」:ある春の夕暮れ、一文無しになった杜子春は都の西の門に寄りかかっていました。そこへ老人が現れ、今夜寝るところもないと聞いて、「夕日の中に立って、お前の影の頭の部分を夜中に掘ると黄金が埋まっている」と教えてくれました。杜子春は大金持ちになり、玄宗皇帝にも負けないぐらいの贅沢な暮らしをしました。人がたくさん寄ってきました。しかしお金には際限があるので、また貧乏になりました。昨日まで毎日来ていた友達は、挨拶一つしません。

再び西の門に寄りかかっていると、再び老人が現れてお金のある場所を教えてくれました。大金持ちになった杜子春は、以前と同じことを繰り返します。3年ほどで一文無しになりました。また西の門に寄りかかっていると、あの老人が現れました。けれど杜子春は、もうお金はいらないと言います。人間に愛相が尽きたと言います。

その代わりに老人の弟子にしてほしいと言います。「おれは峨眉山に住んでいる鉄冠子という仙人だ。弟子にしてやろう」と言って竹にまたがり、杜子春も乗せて峨眉山に下ります。崖の下の岩に杜子春を座らせ「何があっても決して声をだすのではないぞ。一言でも口をきいたら仙人にはなれない」と言って去ります。間もなく虎と白蛇が来たり猛烈な雷雨に襲われたりします。また地獄にも落とされましたが、一言も口を利きませんでした。

ところが、父と母の顔をした馬が鬼たちにムチ打たれているのが見えました。杜子春が固く目をつむっていると「お前さえ幸せになれるのなら、言いたくないことは黙っておいで」と懐かしい母の声がします。こんな苦しみの中でも息子のことを思いやる母・・・杜子春は、母のそばへ走り寄って「お母さん」と叫びました。

気がつくと、また洛陽の西の門に座っていました。また老人がやってきましたが、「もう仙人にならなくていいです。あんな父母を黙って見ているわけにはいきません」と答え、「これからは人間らしい正直な暮らしをするつもりです」と言います。

*久しぶりに読んだ芥川龍之介の話。きらびやかな文章と深い内容に、感服しました。

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