風変わりな司書が選んでくれる本『お探し物は図書室まで』(青山美智子)

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お探し物は図書室まで

一章「朋香」:21歳の朋香の職場は、総合スーパーの中の婦人服売り場です。田舎を脱出したくて東京の短大に入り、就職の時に30社くらい落ちて、最後に決まったのがこの会社です。けれど、お客のクレームには上手に対応できず、なんとなく勤めているだけです。唯一話し相手になってくれるのは、同じスーパー内の眼鏡屋に勤める4歳年上の桐山君。ある日、オフィスに勤めたいと言ったら、エクセルぐらい使えるようになっているといい、と教えてくれました。

エクセルを習いにコミュニティハウスに行きます。そこでお勧めの本は図書室にあると言われます。図書室の司書は中年の女性で、羊毛フェルトをしていました。けれど朋香の話を聞いて、数冊の本を書きだし、最後に「ぐりとぐら」とありました。そして毛織のフライパンをくれました。

帰宅して、子供のころに読んだ「ぐりとぐら」を読みます。えっ、作ったのはホットケーキじゃなく、カステラだったの?と驚きます。普段はコンビニのパンの昼食、インスタントラーメンの夕食だった朋香が、カステラ造りに挑戦します。何度かの失敗の後、ふんわり美味しいカステラが焼けました。そして簡単な料理もするようになりました。体調もよくなりました。自分が何を本当にやりたいのか、ゆっくり探していこうと思います。

二章「諒」:神奈川のはずれの民家の間に「煙木屋」はありました。高校生の諒はその店で気に入ったスプーンを見つけました。純銀でイギリス製だそうです。店主はアンティークが大好きな海老川さんという小父さんです。度々その店に行くようになったのに、卒業間近に閉店になっていました。いつかあんな店を持ちたいという夢を抱きました。

大学を出て家具メーカーの経理部で働いています。休みの日は恋人の比奈とデイトします。自分より10歳若い25歳です。アクセサリーを作るのが趣味です。コミュニティーハウスで鉱物の話を一緒に聞きに行きました。ついでに図書室に寄り、起業とか経営の本を借りようとします。羊毛フェルトをしている司書が話を聞いてくれました。「いつかアンティークの店をやりたい」というと「いつか?」と返されました。そして毛糸玉のような猫をくれました。

家へ帰って「英国王立園芸協会とたのしむ 植物のふしぎ」を読もうとしたら、コミハ通信がはらりと落ちました。そこにはIT企業の会社員をしながらお店を経営している安原さんという人のことが書いてありました。パラレルキャリアだそうです。休日は比奈に振られて、植物の話を読みます。植物は地上と地下の両方がメインだそうです。会社員と店と両方できるかもしれない、と思います。安原さんのお店を訪ねます。奥さんが一緒にいました。「一人でやるのは大変だよ」と言われます。比奈に店の話をしたら、喜んでくれました。「いつか」と言っていないで、できることから進めていこうと思います。

三章「夏美」:元雑誌記者。子供ができて思うように働けません。編集を外されて、くさっています。娘を連れてコミハに行き、図書室があるので寄りました。娘は「はだしのゲロブ」が好きです。羊毛フェルトに針を刺している司書にこぼします。「お母さんもえらいけど、いきなり環境の違う世界に飛び出してきた子供もえらいわよ」と言われます。何冊かのお勧めの最後に「月のとびら」がありました。そして地球の形をした毛玉をくれました。娘がますますいとおしくなります。そして子供の本を出版している会社に移りました。

四章「浩弥」*30歳のニートが、コミュニティハウスに雇ってもらえるまでが描かれています。挫折した絵を描くことを褒められたのがきっかけです。初めての給料をお母さんに渡した時は、一緒に涙がこぼれました。

五章「正雄」:65歳で定年退職をしてから、急に世の中からはじかれたような気がしています。妻は元気に仕事に行き、家事もこなしています。家の仕事で手伝うこともありません。妻に勧められてコミュニティハウスの囲碁講座に出ることにします。図書室があるので寄ると、羊毛で何かを作っている司書が入れ物として使っているハニードームのお菓子の空き缶が、自分の勤めていた会社です。去年までそこに勤めていたと言うと、お礼を言ってコマーシャルソングを歌い出しました。囲碁の本の最後に「げんげと蛙」が推薦本として載っています。そして毛玉のカニをくれました。

マンションの管理人・海老川さんの部屋を訪れておしゃべりをしていると、仕事をたびたび変えてきたと言いました。自転車屋、ラーメン屋、骨董品屋・・・。会社が社会ではなく、人と繋がるところが社会だと言いました。

娘は本屋に勤めています。ハニードームは美味しくて人気だね、と言うので、「お父さんが作ったわけではないし」と返事をすると、「この本屋の本は私が作ったわけではないけど、勧めて売れれば嬉しいわ」と答えました。

借りた本を返しに行くとき、ハニードームをお礼に渡すと、司書は大喜びしました。正男も嬉しくなりました。

*こんな司書のいる図書室が近くにあればいいなぁ、としみじみ思いました。

著:青山美智子, 写真:小嶋淑子, その他:さくだゆうこ
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